「揉めた話ばかり聞くので、正直こわいんです」。ホームページの発注を前に、こう言われることがあります。
実際、うまくいかない案件は一定数あります。ただ制作する側から見ていると、その多くは悪意ではなく、すれ違いから起きています。決めていなかった、聞いていなかった、想像が違った。この3つです。
そして厄介なのは、失敗の芽のほとんどが、契約書にハンコを押す前と、作っている最中に生まれることです。公開してから「しまった」と気づくときには、たいてい手遅れになっています。
この記事では、よくある失敗を「契約前」「制作中」「公開後」の3つの時期に分けて並べます。そのうえで、契約前にどこを押さえておけば防げるかをチェックリストにまとめました。
失敗は「契約前」「制作中」「公開後」の3つに分かれます
まず全体像です。どの時期の話をしているのかが分かると、対策も打ちやすくなります。
| 時期 | よくある失敗 |
|---|---|
| 契約前 | 見積もりの範囲があいまい/月額の総額を見ていない/契約の形を勘違いする |
| 制作中 | 原稿が出ずに止まる/修正が終わらない/決裁者が後から登場する |
| 公開後 | 自分たちで更新できない/ドメインが移せない/問い合わせが増えない |
体感でいうと、こじれる案件の大半は制作中に芽が出ています。契約前の失敗は金額の話なので、痛くても後から取り返せます。制作中に信頼関係が崩れると、そこからの立て直しが難しい。
契約前の失敗は、聞いていなかったことから起きます
このあたりは既存の記事で詳しく書いているので、ここでは要点だけ挙げます。
見積もりの読み方はホームページ制作の見積書の読み方、依頼先の比べ方は失敗しない制作会社の選び方にまとめています。
3つ目の契約の形は、とくに注意して確認してください。ホームページの制作費が、複数年のリース契約に組み込まれている形があります。経済産業省も注意を呼びかけている論点です。詳しくはホームページのリース契約に注意で扱っています。
安さの理由が気になる場合は格安ホームページ制作はなぜ安い?もあわせてどうぞ。
制作が止まる原因の1位は、原稿です
ここが本題です。制作の現場でいちばん多く、いちばん軽く見られている失敗がこれです。
デザインが気に入らなくて止まる案件より、原稿が出てこなくて止まる案件のほうが、はるかに多いです。しかも数週間ではなく、2〜3か月単位で止まります。
理由ははっきりしています。原稿を書くのは通常業務の合間で、しかも「自社を言葉にする」のは慣れない作業だからです。誰でも後回しになります。
💡 止まらないための現実的な手
原稿を「書く」のではなく、話して録る形に変えてください。制作会社に聞き取ってもらい、文章化は任せる。取材費が別途かかっても、2か月の遅れを買い戻せると考えれば安いことが多いです。着手前に用意するものは依頼する前に準備するものにまとめています。
修正が終わらないのは、回数ではなく人の問題です
「修正3回まで」という条件でトラブルになるケースがありますが、原因は回数の少なさではないことが多いです。
本当の原因は、途中まで見ていなかった人が、終盤で登場することです。社長、あるいは現場の責任者。その人が最後に一言いうと、方向性から作り直しになります。
なので制作側としては、最初の打ち合わせに、最終的にOKを出す人を必ず呼んでくださいとお願いしています。1回同席してもらうだけで、後半の巻き戻りが目に見えて減ります。
連絡が取れなくなるのは、担当が1人だから
「返信が来ない」という相談も、ときどきいただきます。
制作会社側の体制の問題であることが多いのですが、発注する側も担当を1人に絞りきらないほうが安全です。窓口が1人だと、その人が休んだだけで数日止まります。
契約前に「窓口は誰か」「不在時はどうなるか」を聞いておくと、この種のすれ違いはかなり防げます。フリーランスと制作会社の違いについては制作会社とフリーランス、どっちに頼む?で整理しています。
「思っていたのと違う」は、言葉の解像度の差から出ます
デザインの方向性でぶつかる場合、たいていは好みの問題ではありません。
「おしゃれに」「かっこよく」「信頼感のある感じで」。この3語は、発注する側と作る側で思い浮かべるものが大きくずれます。同じ言葉で違うものを想像したまま進むと、初稿を見た瞬間に空気が悪くなります。
防ぐ方法は単純で、言葉ではなく実物で共有することです。同業でも他業種でもいいので「これは good」「これは違う」というサイトを3つずつ挙げてもらう。この作業を最初の打ち合わせでやっておくと、初稿の手戻りが目に見えて減ります。
好き嫌いの理由まで言葉にできなくて構いません。並べてもらうだけで、共通点は制作側が読み取ります。
公開後に気づく失敗は、契約の中身で決まっています
公開して数か月後に「そういえば」と気づくものです。ここも契約前に手を打てます。
1つ目は、拍子抜けするくらいよくあります。更新できる仕組み(CMS)は入っているのに、引き渡しのときに操作を教わらないまま終わっているのです。契約前に「公開後の操作説明はありますか」と一言聞いてください。
2つ目は、あとから効いてきます。ドメインや制作データの名義が制作会社のままだと、乗り換えたいときに動けません。詳しくはドメイン・データ・著作権は誰のもの?にまとめました。
3つ目は、そもそも公開しただけでは人は来ない、という話です。原因の切り分け方は作ったのに問い合わせが来ないで扱っています。
フリーランスに頼むなら、発注する側にも義務があります
ここは意外と知られていません。トラブル防止という意味でも、押さえておく価値があります。
2024年11月に「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(フリーランス法)が施行されました。個人で受けている事業者を守るための法律ですが、義務を負うのは発注する側です。
主なものは次の2つです。
取引条件を書面やメールで明示すること
業務の内容、報酬の額、支払期日などを示します。口約束のまま進めない、ということです。結果的に、発注側にとってもトラブルの予防になります。
報酬を期日までに支払うこと
成果物を受け取った日から数えて、定められた期間内に支払う必要があります。「請求書をもらってから」ではなく、受け取った日が起点になる点が見落とされがちです。
適用の範囲や細かい要件は、発注する側の事業規模などによって変わります。実際の判断は公正取引委員会の資料や専門家にご確認ください。ここでは「口約束で頼まない」という原則だけ持ち帰っていただければ十分です。
契約前チェックリスト
最後に、契約書にサインする前の確認事項をまとめます。すべて、聞けば答えてもらえることばかりです。
10個も聞くのは気が引ける、と感じるかもしれません。ただこの質問を嫌がる相手なら、その時点で分かることがあります。まともに答えてくれる会社なら、聞かれ慣れているはずです。
いまの見積もりのまま進めていいか、ご相談ください
「この契約で大丈夫だろうか」「この金額は妥当なのか」——他社さんの見積もりでも構いません。気になる箇所をうかがったうえで、無料で見方をお伝えします。いきなり発注ではありませんし、しつこい営業もしません。
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よくある質問
Qすでに揉めています。どこに相談すればいいですか?
契約や解約についての相談は、消費者ホットライン「188」から最寄りの消費生活センターにつながります。事業者間の取引にあたる場合は扱いが変わることもあるため、内容によっては弁護士など専門家への相談もご検討ください。
Q途中で制作会社を変えることはできますか?
契約内容によります。すでに支払った分の扱いや、作りかけのデータを渡してもらえるかが焦点になります。ドメインの名義が自社であれば、少なくとも住所は守れます。まず契約書の解約条項を確認してください。
Q契約書を交わさず、メールだけで進めても大丈夫ですか?
金額・範囲・納期・修正回数・支払い条件が文字で残っていれば、メールでも意味はあります。ただ後から探すのが大変なので、1通にまとめて双方が確認した形にしておくのが安全です。口約束だけは避けてください。
Q原稿を書く時間がどうしても取れません。
取材して制作側が書く形に切り替えてください。費用は上がりますが、止まっている期間の機会損失を考えると、結果的に安く済むことが多いです。事実確認と最終チェックだけはお願いすることになります。
参考情報
- 公正取引委員会「フリーランスの取引適正化に向けた取組」(フリーランス法の条文・パンフレット)
- 経済産業省「ホームページソフトなどのリース契約はしっかり考えてから」(PDF・契約形態の注意点)
- 全国の消費生活センター等(国民生活センター)(消費者ホットライン188の窓口案内)
- 中小企業庁(取引適正化・支援制度の確認)
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- ホームページのドメイン・データ・著作権は誰のもの?
- ホームページ制作を依頼する前に準備するもの|原稿・写真・素材のチェックリスト
まとめ
ホームページ制作の失敗は、契約前・制作中・公開後の3つの時期に分かれます。そしてほとんどは、契約前に一言確認しておけば防げるものです。
とくに覚えて帰っていただきたいのは、制作が止まる最大の原因がデザインではなく原稿だということ。そして修正が終わらない本当の理由が、回数ではなく決裁者が後から出てくることだという2点です。この2つは、発注する側の段取りでかなり防げます。
契約前の10項目は、すべて聞けば答えてもらえることです。遠慮なく確認してください。それを嫌がられたなら、それも判断材料のひとつになります。
いまお持ちの見積もりや契約書で気になる箇所があれば、他社さんのものでも構いませんので、一緒に見方を整理します。